仲間とのほんの数十分の雑談で誕生したユニット”書と茶”。ー伝えたいのは「季節を味わい、自分と向き合う大切さ」。参加者と一緒に楽しめるイベントを作り続けていきたい。

”書と茶”の誕生は、帰り道で。

―前回、菅谷さんご自身について色々インタビューさせていただき、ありがとうございました。今回は、菅谷さんがプライベートな活動として行っているユニット”書と茶”についてお伺いさせていただきます。まず、”書と茶”の始まりについてお聞かせください。発足のきっかけは何でしたでしょうか?どのように誕生したのでしょうか?

菅谷さん:”書と茶”メンバーの3人は、日本科学未来館のボランティアをしていたメンバーで、中でもボランティア主体のイベントの企画を積極的にやっていたメンバーでした。メンバーの、書道担当の林さんとお茶担当の関谷さんは、僕がボランティアを始める1年くらい前から活動を始めていて、生命科学系のイベントを企画されていました。僕は宇宙好きということで入っていたので、宇宙関係のイベント企画をしていました。

ボランティアを卒業した後は、林さんはアメリカに赴任されていて、数年間会うこともなかったんですが、関谷さんとは、宇宙をテーマにしたイベントを一緒に企画し開催していました。知り合いのカフェなどを使わせてもらって何回か開催していましたが、もっと面白いイベントにするためには何ができるだろうと考えていた、そんなとき、未来館ボランティアのOBOG懇親会がありました。

そこで久しぶりに林さんにお会いして、懇親会の帰り道で「一緒にイベントやりましょうよ」と誘ったところ、「宇宙への熱量は2人ほどないからなぁ」といわれてしまいました(笑)。林さんと一緒にやるなら何がいいかなと考えた時に、僕と林さんの共通点に「書道」があったので、「じゃあ、書道のイベントをやりましょう!」と盛り上がり、関谷さんは茶道を習っていてお茶をたてることができたので、日本の伝統文化である書とお茶を体験できるイベントをやろうということになりました。

ちょうど平成から令和に年号が変わる直前だったこともあり、令和になる2019年5月1日に書初めをやるしかないと日付と企画内容が決まったんですが、誘ってから数十分でここまで決まりました(笑)

書道を始めたきっかけ。

―久しぶりの再会で、しかもその日のうちに、帰り道で誕生したとは驚きです(笑)。ところで菅谷さんはいつ頃から書道を始めたのでしょうか?

菅谷さん:母親が書道の先生を長年していたこともあって、小中学生の頃にずっと書道を習っていました。

埼玉の小中学校では、毎年、年明けくらいに開かれる学生書道展に学年ごとに書道が得意な人が数名選出され、作品を出展することがあったんですが、同学年で書道を習っている人は、うちの書道教室に通っている人を含めても数名しかいなかったので、小中学生の頃は学生展に選ばれる数名にはよく選ばれていました。

ただ、小学生のころは、母親にやらされてる感はありましたね笑。でもそのいやいや期をなんとか乗り越えて中学生までは続けていました。

―すごいですね。大人になってからまた書道を始めたのですね。きっかけは何でしょうか?

菅谷さん:2回再開するタイミングがあったのですが、最初は大学時代のサークルです。芸術系のサークルに入ったのですが、そこのサークルは、芸術と言えればなんでもOKで、好きなことを自由にできるサークルでした。書道をやりたくて入ったわけではなかったのですが、みんなで思い思いの芸術に触れているのが楽しそうだなと入りました。

そこで、いざ自分の作品を作ろうと思ったときに、何ができるのかなぁと振り返って、書道だったらできるんじゃないかと思いまして、改めて筆を触るようになりました。大学のときは、小中学校のときに習っていたことは気にせず、自分の好きなように書いていましたね。

それと、サークルに入ってからは写真にも興味を持ち始めたので、写真を撮り、その上に自分が気に入った歌の歌詞や思いついた言葉を書いてみるということをしていました。そのあたりから、ただ綺麗に書くのではなく、自由に書くこと、自分の作品を作ることを楽しんでいました。

大学時代の作品例
©Tomohiro Sugaya

大学卒業後はまた筆を触らなくなってしまいましたが、3年くらい前から、また久しぶりに書いてみようかなと思うようになりました。大学の時みたいに好きな言葉を好きに書こうと思って作品を作ろうとしたものの、なかなか書きたい言葉が出てきませんでした。
すぐに書きたい言葉が見つからなくても、いつか良い言葉に出会ったときには、ちゃんと上手く書きたいと思い、毎月1回は実家に帰り、母親がやっている書道教室の大人の部の課題を書いてみることにしました。
ちなみに、母親がやっている書道教室の課題には、漢字、詩文書、仮名という3つの部門があります。漢字の部は4文字熟語などを書きますが、詩文書となると、昔の歌人が読んだ詩が課題として出され、綺麗に書くというよりは、その詩の情景を書でうまく表現するという感じです。
仮名は、ひらがなすら何て書いてあるか分からないくらいに崩されて書く分野になります。詩文書と同じく俳句や短歌が課題として出されることが多いのですが、余白や墨の濃淡、線の強弱などいろいろな表現を駆使して詩の情景を表現して書くので、仮名という分野は3つの部門の中でも一番難しいと感じています。
3つの部門のうち、やろうと思ったのは、詩文書でした。読めるように書きつつも、しっかり詩の情景を表現できるようになりたいと思ったからです。ただ、しばらく続けてみると詩文書だけやっていてもなかなか上手くならないと感じはじめました。
結局上達するのに大事になるのは、漢字の部門で学ぶことができる基本的な筆の使い方で、筆の入り方、はね方、はらい方など、筆の扱い方をしっかりとできないと情景を表現するためのテクニックが身についてこないと知りました。
一方で、基本的な筆の扱い方だけを身につけるだけではなく、文字の上手い崩し方や情景を意識した、文章の流れの表現の仕方など、仮名の部門で必要なテクニックも身につけないと、詩文書で必要になる情景を文字で表現することができません。
なので、結局、詩文書をやりつつ、1年前くらいから漢字や仮名も習い始めました。詩文書については、今まで3年ほど取り組んできて、8級から始まるのですが、ようやく初段までたどり着きました。

―すごいですね!興味あることは突き進むタイプなのですね。

菅谷さん:そうですね笑。書道は、途中やらなくなったこともありましたが、小さいころからやっていたことなので、書道を改めてやるというハードルは高くありませんでした。ちなみに一緒に書と茶をやっている林さんは全然別の書道教室で書道を習っていますが、書道家としての名前をいただいているほど上手いです。

“書と茶”の3人。左から、林、関谷、菅谷
©書と茶

”書と茶”に込められた、メンバーの想い。

―では、”書と茶”をやるうえで、メンバーの想いをお聞かせください。

菅谷さん:書とお茶のイベント、とだけを聞くと、きれいな字をかけるようになろうとか、お茶の作法をきちんと学ぼうというイメージがあるかもしれません。
そういう企画もいいと思いますが、メンバー3人とも書もお茶も自分らしく楽しめばいいというのが共通の想いです。お手本をマネしてきれいな字を書けるようになろうというのではなく、自分らしい作品を作り、書いた作品を見ながらお茶も楽しむイベントにしようと、最初の企画から決まっていました。
最初は単純に、令和の始まりの日に、書初めとしてどんな時代にしたいかを書いてみようという企画でした。その次の企画からは、季節に応じたテーマを決め、季節を感じながら日本の文化を自分らしく楽しむというコンセプトに固まっていきました。
もう2年続けていますが、自分たちが楽しいと思っている書とお茶の楽しみ方を、参加者の方々と共有できるということが、楽しく続けていられている理由だと思います。

―改めて、季節に触れる機会は大人になると少ないですよね。毎日に忙しすぎて、季節をめでることすら忘れてしまいます。

菅谷さん:そうですよね。せっかくのきれいな四季を楽しめないのはもったいないので、季節をちゃんと感じながら生活していきたいと思っています。

”書と茶”の活動で、印象に残ったイベントは、七夕と1年の振り返り。

―これまでどのようなイベントを開催されてきましたでしょうか?

菅谷さん:季節を楽しむというコンセプトがあるので、春夏秋冬のそれぞれの季節ごとに開催しています。春だったら、梅や桜をテーマに春にどんなイメージがあるか、どんな春を楽しみたいかを書に書いてみる、書いた書を発表しながら季節にあったお菓子とお茶を楽しむといったイベントにしています。
夏だと七夕に合わせて、七夕の由来などを紹介し、みんなで短冊に願い事を筆で書いて、終わった後に神社に奉納するということもしたことがあります。
秋には、中秋の名月をテーマにした作品を作ったり、紅葉などの秋の写真にどんな言葉を載せたいかを考えてもらったり、冬には、1年の終わりにどんな1年だったかを漢字一字に表してもらったり、年明けにどんな1年にしたいかを書初めとして書いたりしました。
去年1年間は、季節ごとに参加者と一つの作品を合作しました。コロナ禍でオンライン開催もしましたが、毎回その時にしかできない作品ができて思っていた以上に楽しめました。

―いいですね!自分たちが楽しめると、自然とイベントも増えていきそうですね。

菅谷さん:本当そうですね。結局昨年は季節ごとどころか合計6回もやっていました笑。

2021年3月に開催された「理想の春の過ごし方を先取りする書と茶会」では、写真が印刷されたポストカードにそれぞれが思いついた言葉を書いて、フレームに入れて飾れるように企画していた。
©書と茶

―イベントの内容としては、テーマに添った写真のポストカードを用意して、その上に筆ペンで好きな言葉を書くというのが多いですか?

菅谷さん:それは割と最近に固まってきました。最初の方は、色紙に書くとか、短冊に書くとか、ただの白い半紙ではなく、模様が入っている紙や扇形の紙を用意するなど書くものをいろいろ変えて試していました。
そんな中、昨年はコロナ禍において、どこかに集まって開催することができなくなり、どうにかしてオンラインでも、自分らしく書と茶を楽しめる活動ができないかと3人で考えました。
その結果、オンライン会議システムで参加者とつながりながら、テーマに合わせた写真をオンラインで共有して、参加者が気になった写真に対して、合う言葉をお持ちのペンで紙に書いてもらい、その言葉をスマホアプリを使って写真に載せて作品をつくるということをしてみました。参加者が書いた言葉をオンラインで共有しながら合作を作ることもできたので、これまでとは違ったオンラインならではの書の楽しみ方ができたと思います。
そんなオンラインでの企画をオフラインでやったらどうだろうと、写真をポストカードに印刷して、字は直接写真の上に書いてもらうということもやるようになりました。

2020年の“書と茶“活動記録
©書と茶

―色々試しながら、やり方を作ってきたのですね。
これまでのイベントの中で、特に、印象に残ったイベントはありますでしょうか?

菅谷さん:個人的には、七夕で短冊に願いごとを書く企画と、1年を振り返り漢字一字で表す企画が印象に残っています。
七夕企画は、神社で短冊を購入し、神社の近くの会場を借りてそこで願いごとを書き、奉納まで行いました。
短冊に願いごとを書くときは、七夕の由来や織姫や彦星の話、夏の星座についての話もしましたね。
七夕について改めて由来などを調べると、「幸せになれますように」といった願い事というより、「○○がうまくできるようになりたい」といった自身の成長を祈願するような習わしだったということもわかったので、イベントでは、自分はこれからどのようなことを成し遂げたいのか、自分なりの目標を書いてもらうという企画にしました。
七夕は、書と茶の前にやっていた宇宙をテーマにしたイベントで話していたような内容と合わせてイベントを作ることができたので、今までやってきた経験を集約することができた実感がありました。

七夕企画では、小さい笹の枝を用意して、神社に奉納するまで飾って楽しみました。
©書と茶

1年を振り返り漢字一字で表す企画は、参加者それぞれの1年が一文字に集約されているのが感じられてとても面白かったです。毎年12月に日本漢字能力検定協会から発表される一字は、社会情勢やその年に起きた大きな災害など、ネガティブな字が選ばれることが多い気がしています。

もちろん、多くの人に取ってその一文字が選ばれるのは納得の1年だったかもしれないですが、自分たちで企画したイベントでは、ネガティブな言葉で1年を終わらせたくないなというのがありました。

誰でも楽しい思い出もきっとあるはずなので、ワークシートを作成し、季節ごとに何があったかを振り返っていただき、楽しい思い出やその時どんなことを感じたのかなどを書き出してもらいました。ワークシートで振り返ったせいか、それぞれの1年間が集約された一文字がでてきて、これはすごくいいイベントになっているなと実感しました。

―たしかに、自身の1年を振り返って絞りだしたその一文字は、その人の人柄や、どういう生き方をしているのか、が分かる気がしますね。毎年やってほしいイベントです!

菅谷さん:毎年やりたいですね。それぞれの1年が込められた一文字なので、その文字に込められた想いをその人らしい字で表現することが大事だと思います。

“あなたの2019年を一文字で表す書と茶会”についてはこちら

活動を通して、季節を楽しむコト、自分と向き合う大切さを伝えたい。

―書と茶の活動を通して、参加者に伝えたいことは何でしょうか?

菅谷さん:先ほども言ったように、毎日の仕事などで日常に追われていると、季節感を感じることを忘れてしまってしまいがちだと思うので、その時々の季節を楽しんでほしいということと、書道を通して伝えたいのは、自分と向き合う時間を作ってみてほしいということです。ただ、その書道も、一緒に味わうお茶も、硬く考えず、自分らしく楽しんでいいということは大切にしたいですね。

書道をやっていると、書きたい言葉をどうやって書いたら自分らしく表現できるか、墨をどのくらいつけるか、どう筆を動かすか、すごくいろいろなことを考えて集中して、その間、すごく自分と向き合っている感覚になります。

あと、季節ごとに、そのときの自分の気持ちと向き合って書として何か形に残しておくと、その時に感じたことを時間が経った後に振り返ることもできます。季節を積み重ねて自分も移り変わっていることがわかります。そういう楽しさを皆さんと共有していきたいです。

書と茶で毎回考えているのは、イベントだけ楽しんで終わりではなくて、自分が作った作品を家に飾ってたまには振り返ってもらえるようにしたいということです。その時々の自分の想いを作品にして持ち帰ってもらい、それを積み重ねていけば、スマホに残っている写真を見返すのとはまた違った、振り返り方ができると思います。

―たしかに、毎年の春夏秋冬で作品を作ったら、この年の自分はこんなこと思っていたんだなって振り返られるのはとても素敵です。

今後も、参加者と一緒に楽しめるイベントを。

―今後やりたいことはありますでしょうか?

菅谷さん:毎回やってみると、次はこうしたいねっていうのがでてくるので、その時々で変えていくのがいいと思います。ある程度イベントのスタイルも確立してきた感じもありますが、これからも、もっと参加者に楽しんでもらえるイベントになるように追求していきたいと思います。

今まではこちらでテーマに合う写真を用意していましたが、参加者が自分で撮った写真を使ってもらうというのもいいですね。自分のお気に入りの1枚を選んで印刷して、自分のお気に入りのペンで書いてもらってもいいと思います。

また、ブログで毎回開催報告もしていますが、メンバーの作品はもちろん、参加者のみなさまの作品、そして、参加者と共同で制作した作品など、さまざまな作品がたまってきたので、どこかのタイミングで個展などもできたらいいなと思います。

“書と茶”のブログ:https://reisyo.hatenablog.com/
©書と茶
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