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「新松戸レモン」はどのようにして誕生したのか。街中の厳しい環境でも、農業を守り続ける “鵜殿シトラスファーム”の物語。

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「新松戸レモン」はどのようにして誕生したのか。街中の厳しい環境でも、農業を守り続ける “鵜殿シトラスファーム”の物語。

住宅街に突如ポツンと現れるこじんまりしたレモン畑。レモンは温暖な地域で栽培されることが多いですが、ここは千葉県の北西部に位置する松戸市。決して温暖とは言えない環境でもすくすく育っているレモンはとても美味しいと評判です。今では”新松戸レモン”と呼ばれ、地域の皆さまに愛されるレモンにまで成長しています。今回は、住宅が立ち並ぶ松戸市で、レモン栽培に挑戦した“鵜殿シトラスファーム”の鵜殿さんにインタビュー。栽培を始めるスタートラインから現在、未来のことまでお伺いします。

鵜殿シトラスファーム
鵜殿敏弘さん

鵜殿さんは、子供のころから動植物が好きで、学生のときには乗馬にもハマっていたとのこと。

農業を後世に継がせたいーそんな一心で、たどり着いたのが”レモン”

―本日は貴重なお時間をありがとうございます。鵜殿さんが栽培されているレモンは、温暖な地域で栽培されることが多いイメージでしたので、松戸で育てられていると知り驚きました。本日はレモン栽培のことから、鵜殿さんご自身のことなど、色々とお伺いできればと思います。まずは、現在のお仕事についてお聞かせください。

鵜殿さん:今はレモンの栽培がメインの仕事ですが、レモン以外にも他に柑橘系を何種類か育てています。例えば、ライムやみかんの品種ではるか、あすみ、などです。

直売所の裏に温室があるのですが、今後そこは壊して、レモン以外の柑橘類はその跡地にすべて移そうと検討しています。たとえば、先ほど述べたように、普通のライムやオレンジ系統のもの、それとレモンの新しい品種である“璃の香”などです。あとはバーなどからも注文がちょくちょくあるので、”ベルガモット”や”じゃばら”なども少しずつ栽培するつもりです。

レモン畑
レモン畑

レモン畑

―新松戸でレモンを栽培しようと思ったきっかけはなんでしょうか?

鵜殿さん:私の家は代々農家でしたので、自分が農業の道に進むのは必然でした。昔はこの辺り一帯、新松戸はすべて田んぼでした。しかし、50年ほど前ですかね。小学生くらいのころから区画整理が始まり、埋め立てがスタートしました。私が大学を卒業するころには、マンションが建ち始め、住宅が立ち並び始めました。なので田んぼはできなくなり、畑に切り替えることになりました。大学を卒業してからは父の畑を継いで、今に至ります。

ただ、父の代はメインが米作りだったのですが、それができなくなったので、メインの作物がない状態でした。それで花を育てたりと色々試しておりましたが、家にたまたま植わっていたレモンの木がたくさん実るようになったんです。私が子どものころは、松戸市自体が寒くて、柑橘系が育つ環境ではなかったんですけどね。それが温暖化の影響で柑橘系が育つ環境に変わってきました。

それまでは、結局は畑で花や野菜を作っていましたが、同じところで同じものを作っていると連作障害というものが起きてしまい、違う作物を作るには土を入れ替えないといけませんでした。それだったら一気に変えてしまおうと思いました。それで考えたのが、まずは、松戸の特産品である梨。ただ、すでに梨農家さんはたくさんいるので、後続で私が梨づくりを始めても追いつきません。甘くておいしい梨は作れないと思い、そしたら甘い梨よりも酸っぱいレモンの方が作りやすいのではないかと思いまして。それで、家に植わっていたレモンの木が3本あったのですが、それがよく実ようになったので全部レモンの木に切り替えてしまおうと思いました。

先ほども言いましたが、うちは代々農家なので、代々継がせていかないといけません。米作りができなくなり、技術的に後に継がせるものがなくなってしまいました。なので、試行錯誤して、後を継がせられるようなものを作っていこうと考えた結果、レモンにたどり着きました。これが、レモン栽培を始めた理由です。

レモンは採りたては硬く、ワックスがかかってないので徐々に水分が抜けていきます。なので、しおれてしまわないように、袋に入れて販売。

―そうなんですね。新松戸でレモンをやられている方は鵜殿さんだけでしょうか。

鵜殿さん:そうですね。新松戸でのレモン栽培はここだけ。やるからにはプレイヤーが少ない方が、競争相手がいないだけ楽ですからね。

―そうですね。今のようにレモンが多く育つようになり、販売まで至るようになったのはいつ頃からでしょうか?

鵜殿さん:レモンの木の切り替えを始めたのが2010年くらいからです。最初に苗を作り、挿し木で増やしていく段階では2年かかりました。そして2013年から2014年にかけて小さい木を畑に植え始めました。今では全部で500本ほどあります。

2013年の畑の写真
2016年の畑の写真

今後は、レモン以外にも挑戦していきたい

―今後、やりたいこと、やってみたいことなどありますでしょうか?

鵜殿さん:まず、レモンの木をフル稼働させたいですね。今はまだフル稼働していないので、レモン収穫量は年間10トンほどですが、フル稼働になると年間収穫量が15トン~20トンを予定してます。

レモンに関してはだいたい育つコツが分かってきたので、他のものにもどんどん挑戦していきたいと思います。たとえば、先ほども申しましたが、試験的にライムと金柑ライムを植えています。

ちなみに、この金柑ライムは世にほとんど出回っていない品種。金柑とライムの交配種です。味と香りはライムに近いです。

これのいいところは使い切りサイズなところ。レモンだとスライスや櫛切りにして使用しますが、残ることがほとんどなので、ラップで包んで保管することが多いですね。でもこちらは二つに切って絞って、一回で使い切ることができ、手軽に使えます。お酒に入れて飲んでも美味しいですし、使い道は色々あります。あくまでレモンが主ですが、このような他の柑橘系にも力を入れてやっていきたいです。

ライム
金柑ライム

―千葉県の市川の方にも所有されている山林があるとお聞きしましたが、そちらではどのようなことをやる予定でしょうか。

鵜殿さん:市川の方は今年植え替える予定ですが、これからですね。軌道に乗るのは5年も10年も先でしょう。実は茨城県の阿見にも空いている畑があるので、まずはこちらに手を付けたいと思います。阿見の方では温州みかんを栽培する予定です。

温州みかん

全て手探りで試行錯誤の毎日。苦労した先にたどり着いたレモン。

―レモンづくりを始めた当初、苦労された点はありますでしょうか?またそれをどのように乗り越えたのでしょうか?

鵜殿さん:苦労した点はまず、寒さです。レモンは寒さに弱いので、上手く育てないと枯れてしまいます。最初は試行錯誤での栽培でしたので、ある程度は枯れてしまうだろうと予測していました。なので枯れるのを見越して多めに苗を作って準備をし、枯れたら植え替える、を繰り返していました。なにせ、周りにレモンを作っている人がいないので、全て手探りです。苦労だらけでした(笑)。

―一から始めるのは大変ですね。10年も経たないうちにお店を出すまでに成長させたのはすごいですね。

レモンは寒さに弱いということでしたが、この寒さにはどのように対処されたのでしょうか。

鵜殿さん:レモンの木を上から覆ってしまうと、毎年そのようにやらなければならなくなります。なので、植えたら植えっぱなしにしました。そして枯れたら植え替える。そうやって、レモンの方が慣れてくるまで待ちましたね。

―地道な作業で根気がいりますね。レモン栽培に力を入れていることはありますでしょうか。

鵜殿さん:体に良い、安心安全なレモンづくりです。ここでは無農薬のレモンも作っています。ただ、農薬不使用ですとレモンの肌がきたなくなってしまうこともあり、そうすると、商品価値が落ちてしまいます。なので農薬を使っているレモンもあります。ただ農薬を使うと言っても、花の咲く前に2回ほどかけるだけなのでほとんど実に影響はありません。今年、使用・不使用両圃場のレモンを、茨城県つくば市にあるつくば分析センターに残留農薬の分析を依頼しましたが、「両圃場ともに残留農薬は検出されませんでした」という分析結果をいただきました。

農薬不使用レモンもそうでないレモンも味は変わらないので、安心できる商品です。肌が綺麗でないレモンは訳ありとして販売しているので、うちでは廃棄処分するレモンはほとんどありません。

農薬不使用レモン

普通のレモン

大量に栽培すると農薬不使用でも、全く傷のないものもできますので農薬使用・不使用でその割合が違うだけ。上の写真はキズありキズなしの一例です。

―なるほど。農薬不使用栽培は苦労されることが多いのではないでしょうか。

鵜殿さん:そうですね、大変です(笑)。やはり、虫と病気との闘いです。虫の場合は天敵がいるので、そういう天敵が虫を食べてくれたりします。なので、食害するような害虫に対しては対処が比較的楽です。特に大変なのが病気です。病気対策と虫対策の薬は全く違います。強い風や冷たい風などでも、病気を助長させてしまうこともあります。

虫対策に関しては、害虫を寄せ付けない黄色い光が出る光バイオの” 光防大師(こうぼうだいし)”を使っています。これを使うと、殺虫剤を大幅に軽減できるので害虫防除の方法として重宝しています。

それと併用しているのがブラックライトです。ブラックライトは虫が好む光の波長が出るので、補虫効果や殺虫効果があります。この黄色いライトとブラックライトの二つを使って虫対策をしています。

光防大師(こうぼうだいし)

地域の人たちが名付けた”新松戸レモン”

―”新松戸レモン”を今後どのようにしていきたいでしょうか。

鵜殿さん:最初は新松戸産レモンということで販売しておりましたが、自然発生的に、地元の皆さまが地域愛みたいなもので、”新松戸レモン”と呼ぶようになりました。なので、皆さまが作り上げてくださった”新松戸レモン”のブランドをもっと広めていきつつも、変わらず地元の皆さまから可愛がってくれるレモンであり続けたいと思います。

―地域の皆さまに愛されるレモンっていいですね。柑橘類直売のMONPEは、いつオープンしたのでしょうか。

鵜殿さん:2018年9月です。2016年から出荷を始めて、2年後にここをオープンしました。レモン栽培に力を入れ始めた2013年からまだ10年経ってないんですね。今のところはまだ6割~7割の収穫量ですが、フル稼働に向けて頑張りたいです。

柑橘類直売所『MONPE』

―すごいスピードで成長していますね。ところで、「MONPE」という名前の由来は何でしょうか。

鵜殿さん:作業着の「もんぺ」が由来です。よく田舎のおばあちゃんが農作業のときに着ているイメージがあるかと思います。私の母がよくもんぺを着て農作業していたんです。それで農産物の直売所らしいMONPEという名前にしました。

―いい名前ですね。ここではレモンの旬の時期以外には何かやられていますでしょうか。

鵜殿さん:旬の時期(9月~2月)以外は基本的には、肥料をまいたり剪定したりと、レモンの木の管理をしています。他に、ミントなどのハーブも植えて、バーの方向けに出荷したりはしていますが、少量です。

―そうなんですね。旬の時期には、イベント等も出店されるとお聞きしました。

鵜殿さん:そうですね。毎週土曜日に赤坂のアークヒルズのアーク・カラヤン広場にて開催されているマルシェに出店しています。それとイベントといえば、2020年はすべて中止になってしまいましたが、新松戸まつりに参加したり、地元の公園でやっている収穫祭に参加させていただいてます。

―色々な場所で新松戸レモンに出会えるのは嬉しいですね。最後に、おススメのレモンの食べ方を教えてください。

鵜殿さん:基本、ヨーロッパの方では何の料理にもレモン汁をかけてしまうくらい、どの料理にも合うのですが、特におすすめなのが、アヒージョやアクアパッツア、カルパッチョですね。うちなんかでは、餃子にかけたりもします。あとは、お酒のフレーバーですね。個人的にはウォッカやジンで割るのが好きですね。

ハイボール レモン割

ジンレモン

レモンハイ(ジンベース)

―餃子にも!レモンの食べ方は無限大ですね。ぜひみなさんにも、自分なりのレモンの美味しいレシピを発見してほしいです。

本日はお忙しいところお時間いただきありがとうございました!

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